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『薬屋のひとりごと』オフィシャルインタビュー
監督・シリーズ構成 長沼範裕 インタビュー≪後編≫

前編では、1~6話までのお話をたっぷりお話いただきました。後編では7話~12話についてお届けいたします。
*前編インタビューのチェックがまだの方はこちらからチェック

―第7話「里帰り」では、6話で登場した李白が大活躍しました!

李白が出てきたからこそ、猫猫と壬氏のキャラクターをより掘り下げられることができたと思っています。李白はこれまでの登場キャラクターたちとは根本的に違うと思っているんですね。自分の意志・欲望に真っ直ぐで、猫猫にも正面から向き合うし、ストレートにものを言うんです。だからこそ猫猫も、李白には素直にシンプルに向き合うことできるんだと思うんです。緑青館の三姫の紹介状を出すシーンなんかは、花街で暮らしていた本来の猫猫に近いと思います。普段後宮で過ごしているときは、いかにひっそりと目立たないように暮らしているかがわかると思います。李白の白鈴に対するストレートな表現は今後の壬氏と猫猫の対比として描いていきますのでお楽しみに。

―玉葉妃にからかわれている壬氏も、とても可愛らしかったですね!

本当に壬氏は猫猫のことになるとポンコツですね笑

無意識に感じるひっかかりや違和感が、後々繋がってくる

―そこから里帰りした猫猫が、花街での心中事件に遭遇する第8話「麦稈」は、これまでとのエピソードとはまた雰囲気が変わった回になっていましたね。この話で意識されたポイントなどはあるんでしょうか?

この話は、「多重」をテーマにしています。花街での心中事件として始まった話が、登場人物のそれぞれの思惑が絡まり、真相は闇に包まれたまま終わる。物事の見え方に裏と表があるように描いています。基本ミステリーですがオカルト要素を強めにして、不気味さを感じてもらえるような画面作りを意識しています。
妓女の服の色や影の落とし方、妓女が男を殺そうとするシーンを“ゆらっ”と立ちあがるようにするなど、“自分の意識の外で起きている”ような…。そういう意識で見ると、表面上は妓女も禿も自分の恨みやかたき討ちにも見えれば、その裏で意識とは違う何かにとりつかれているようにも見えてきませんか…?

―ぞくっとしますね…。ラストの暗闇での猫猫の瞳もぞくっとしました…

猫猫と梅梅のお風呂での会話は、ここまでの一連とは真逆で、温かみのある心のふれあい。偽りにあふれた花街・後宮の中で、ここは真心が感じられる大切な場所ですね。そこから一気に落差をつけて猫猫が誰かを看病しているカットが映し出される。このシーンは第2クールに繋がっていくものですね。8話全体がそうですが、今後の示唆が多い重要な回です。

―この話以外にも、1話から第2クールへの伏線が散りばめられていますよね。

物語を知っている人なら気づくシーンもあれば、今は気づいていないものもあると思います。おそらく見ながら、無意識にひっかかりや違和感を覚えていると思います。後々繋がってきたときにぜひ見直してみてほしいです。気づいた時に、これまでのセリフや表情から受ける印象ががらりと変わると思います。第9話もまさに“違和感”や繋がりを意識した回です。

―第9話「自殺か、他殺か」では何をテーマにされていたんでしょうか?

今作では感情や起こっている事件に合わせて全体の色や空模様などをすごく意識して作っているので、ぜひここも注目いただきたいポイントなんですが、9話はストレートに「赤」をテーマにしていました。今作を通してテーマとして設定している「生と死」、そして「死生観」「身分の違い」を赤で表現しました。
ラストの挿入歌が入るシーンの窓の外の夕景は、赤をしっかりと目立たせて「これ以上踏み込むのは危険」という意味を込めました。ここは6話のラストシーンとリンクさせています。園遊会の簪の一件で、猫猫と壬氏の距離が近づいたと思ったら、里樹妃の侍女・河南を諫めたあとに、壬氏の手を払ってすごく対応が冷たくなります。この根本にあるものは、猫猫と壬氏の二人では“生と死”、とくに“死”の重さが異なるという点です。死生観や命の重みの違い、猫猫は花街で生きる中で、妓女たちの死を間近見てきて、さらには後宮に入ってからも身分が低く、さらには毒見役ともなれば、その命が軽いことを身につまされて知っている。
6話での毒見役の命の軽さ、8話の花街の騒動、そして9話での下女の水死事件と続いてきている中で、より痛感していているからこそ、壬氏との間に決定的な壁が出来てしまうんです。けれど壬氏は、猫猫に壁を作られたことには気づいていても、この死生観の違いの根源(身分差)には気づけていない。だからこそ、10話以降も少し二人の関係性はぎこちなくしています。今後の二人の関係を見ていく上でも大事なポイントになるので、印象に残るように描くようにしています。

どのキャラクターの目線で見るかで、受け取る感情が変わってくる

―そこから続く第10話の「蜂蜜」ですが、これは壬氏の笑顔が波紋を呼ぶ回でした…!

9話で猫猫との関係に違和感を持っているからこそ、何とかしたいと思ってぐいぐいしかけちゃう。けど行き過ぎて玉葉妃に怒られる笑。こう言っては申し訳ないけど…ハチミツは引きますよね笑。イケメンだからって許されないこともある。

―原作者の日向夏先生も「彼にとってどうしようもない過去」とSNSで発信してらっしゃいました笑。そして、10話・11話に登場した風明は、見る人達に強烈な印象を残したと思いますが、描くうえで気を付けたポイントはありますか?

わかりやすく描きながらも、絶対に悪役として見せたくなかったので繊細に描くようにしました。だからこそ、声優に日髙のり子さんを起用しました。日髙さんの声は、すごく柔らかくて、悪人の声では決してないですよね。風明は、生まれながらの悪人では決してなく、無知ゆえに幼児に蜂蜜を上げてしまい、歯車が狂ってしまった。嘘に嘘を塗り固めてしまったんです。本来であれば、後ろ暗いことなんて何もないとても優秀な侍女頭になっていたはずです。

―そこから続く、第11話「二つを一つに」ですが、Aパートの風明と猫猫の攻防は、息を呑みながら見てしまいました。

このシーンは会話がずっと続きますが、しっかりその内容に集中してもらいたかったので、聞かせるシーンでは絵を動かさないようにしています。だからこそ、感情がしっかり出ていくように、影つけや音付けは重要視しました。セリフの邪魔にならず、でもセリフが効果的に聞こえてくるような芝居や音響を意識しました。

―そして阿多妃と猫猫が塀の上で語り合うシーンもドラマティックに描かれていました。

阿多妃は高潔な人で、そんな彼女を守るために下女は自殺し、風明は秘密を守りながらも処刑されていった。そんな彼女たちに思いを馳せながら、酒を飲む彼女が美しくエモーショナルに見えていたらそれは自分としてはとても嬉しいです。 ここからは自分の解釈になってしまうのであまり深くは話しませんが、阿多妃が子供の入れ替えを知っていたとしたら、阿多妃の行動や表情をひとつひとつ辿ってみると、彼女の見方も変わってくるんじゃないでしょうか?どこまでが感情的で、どこまでが確信犯的なのか…。ぜひみなさんにも思いを巡らせてみていただきたいです。

―なるほど…里樹妃とのラストシーンも少し受け取り方が変わりそうです。そして12話「宦官と妓女」で第1クールは最終回を迎えました。12話で意識されたポイントはありますか?

前半は壬氏視点を意識、後半は猫猫視点を意識してカメラを置きましたし、ここまでの二人の関係をきちんと最後に描くことを意識しました。二人の関係が今ここ!と認識したうえで、13話以降を見ていただきたいと思っています。ここまではずっと無反応だったり、嫌がったりしていた猫猫が、宴のシーンで壬氏に初めて反応してしまった。今まではどこか自分を偽ったり、悪ふざけをしていた壬氏が、彼自身の素直な感情から純粋に自然に出てきた行動だったので、猫猫も思わず反応してしまったんです。最初のころの二人では絶対に起きなかった行動ですね。繰り返しになってしまいますが、全24話の物語として作っています。1話はこの作品の世界観を伝える土台のような位置づけでしたが、1~12話もこれから起きる物語へ向けて土台になっています。2クール目につながるものもたくさんちりばめているので、始まる前にぜひもう一度見直していただけるとうれしいです。

―そんな第2クールの見どころはどのような所になっていますか?

ぜひ羅漢に注目していただきたいです。狐目の曲者キャラですが、ちゃんと彼にもバックボーンがあって、それが次第に見えてきます。最後まで見ると、最初とはイメージがまるっきり変わる人物だと思うので、ぜひ注目してください。
このあとも皆さんが最後まで楽しんでいただける工夫をたくさん散りばめていますので、ぜひご視聴お願いします!

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